勝利の代償
<シリアス>

 遊戯は慎重にカードを引きながら、周到に罠を張る…自分自身に向けて。すぐには発動しない様に、けれど終盤自分の最後の攻めが先方の逆転の一手を生み出す様に…

 全ての準備は整った。


「行くよ…ボクの攻撃!」
「甘いぜ相棒!」

「この瞬間、リバースマジック発動!」
 …遊戯の攻撃は無効化され、さらに魔法効果でモンスターは全て破壊され。
 そして…
「相棒に…ダイレクトアタック!!」
 ライフが…ゼロとなる…!


「やっぱり…キミには勝てなかったね…」
 頑張ったのに、そう悔しそうにつぶやいて見せながらも泣きたくなる程嬉しかった。これでもう、永訣の哀しみに暮れる事は無い…
「ああ…」

「だけどな、相棒」


「…オレは本当の勝者じゃ無い…」


 え?と思った時には…『遊戯』の足元にドス黒い闇が口を開いていた!


「どうして!?」
「オレは結局勝利以外選べなかった、第一これはオレの力じゃ無い。だから闇がオレを連れて行くんだ…」
「そんな…」

 うそ…!!

「だけどな」
 哀しい程…切ない笑み。
「相棒の気持ち…オレは…」
 闇が浸食する中で尚、笑みは遊戯に向けられて。

「嬉し…かった…ぜ…!」

 ゴオッ…!!闇が瞬時に広がって。『遊戯』を奈落の底へと引きずり込む…!!
「嫌ぁっ!!」

「返して!お願い返して!もうひとりのボクを返して!!」

 …遊…戯…

「ボクはそんな事のために…」

 …遊戯…

「闘ったんじゃ無い…!!」


「…遊戯!!」



「あ…」
 汗だくのまま、引きずり出される様にして悪夢から現世へと帰って来た。
「遊戯…」
 名前を呼ばれて。漸くにして焦点があって来る…

「海馬くん…?」


 覆い被さる様にして。海馬が…いた。



「忘れたのか!現実のお前は…刺草の上を裸足で歩むが如き痛みに耐え、敢えて全力を持って臨んだのだ!」
「う…ん…」
「お前が成した決闘は誰にも恥じぬ至高のものだった…だからこそ、『奴』は光の中へと帰って行ったのだろう!」


「…思い出せ」
 突き放す程に厳しく…強い声。
「あの時、デッキに篭めたお前の思いを!持てる力全てを、魂を…全て注ぎ込んだのだろう!」
「…うん…」
「思い残しなぞ微塵も残らぬ様、何もかもを込めた…そうでは無かったか!」

 そう…そうだけど!


「ならば…悔いるな」
 厳しく、だがはっきりと。海馬は繰り返し遊戯に語る。
「お前の選んだ道は決して安楽なモノでは無い」

「それに」

「お前は『奴』の背負いし勝者の痛みを全て。その身に引き受けたのだ…」
「え…?」


「『奴』が。覇者であり続けるために…何の代償も負わずにいたと、本気で思っているのか?」
 青の双眸が、常に天の高みを目指し続けるあの強いまなざしが。
 遊戯の心を射抜いている…


「お前は。果て無き勝者のくびきから、『奴』を真に解放したのだ…」
「ボク…が?」
「そうだ」


 厳しい声の中で。頬に触れる手だけは酷く優しくて。
 遊戯はただひたすら…透明な涙を流し続けていた。


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