<海馬>

 視界の中にあいつがいた。
 いつも通りのあいつがいた。

 少し眼を伏せうつむきがち、なかなか俺を見ようとせん。
 見ている内に焦れて来て、俺の方から名を呼んだ…

 と。あいつが顔を上げて俺を見た。
 そして。こぼれる様な笑顔を見せた…


 眼が覚めれば何と言う事も無い、見慣れた仮眠室の天井がある。ほんのわずかの折にすら、あいつを求める己に苦笑する…

 だが。起き上がりながら一つ気が付いた。


 あの最後の笑顔は格別だったが、それまでの様子はどうにも不満だ。
 何故、その様に面を伏せてばかりいるのだ…


 顔を上げろ、遊戯。たとえわずかな間と言えど、そんな真似は許さんぞ。
 その様に伏せられては…

 お前の顔が、良く見えん。


>>後記へ
>>トップへ戻る 無料ホームページ掲示板