風邪薬
<獏良&天音>
獏良家はあまり丈夫な一族では無い、風邪を引くのはしょっちゅうだった。だから医者も薬も日常茶飯事、特に抵抗は何も無く。獏良は随分早い内から、粉薬やシロップでは無く錠剤を飲める様になっていた…
けれど。
妹の天音と来たら…
「おいし〜♪」
パジャマ姿で布団の中、しかし天音は御機嫌だった。シュークリームを盛んに頬張って、病気の悲愴感は何処にも無い…
「全く…」
はあ、兄の獏良はため息を付く。
「どうしたってお前は…薬がいつまで経っても飲めないんだ?」
もう小学校に通って随分になるが、天音は今でも錠剤が飲めない。
しかも粉の薬まで苦手と来て、皆で知恵を絞って考えた末…天音の好物のシュークリームを買って来て、そのクリームに混ぜて飲ませる作戦にして。
さらに念には念をしっかり入れて、天音の特別好きな店からわざわざ買って来て。形を崩さぬ様に奇麗に切って中身に混ぜ、それをまた丁寧に元通り形を整えて…
其処までしないとどうしたって。天音は決して飲まないのだ。
確かに感覚は鋭敏な方だ…苦味も強く感じるのだろう。
それにしても、何故…?
「だって…お兄ちゃんはね、薬飲めたら『お兄ちゃんだね』って言って貰えるけど、天音は妹なんだもん」
「…関係ないだろ、そんなの」
「あるよぉ」
「お兄ちゃんはこれからもずう〜っとお兄ちゃんだけど、天音はずう〜っと妹だもん」
「それにね、」
悪戯っぽく笑って、シュークリームをぺろりと食べる。
「こんな楽しくて美味しい事、子どもだって言うなら」
「天音ね、大人になんて…ならなくったって全然いい」
そう言って無邪気な程に笑った妹の顔が。
何故か、頭からずっと離れなかった。
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