闇の古代単語帳 『シャブティ』
<子バクラ>

 盗賊達は兵士達から逃げていた、命からがら逃げていた。
 無理を言って付いて来たバクラは。ただ、馬を駆る仲間の後ろでしがみつくしか仕様が無い。
 矢は飛ぶ罵声は飛ぶ馬は激しく揺れまくる…片手だけで前の男の衣服を掴んでいる、軽い子どもの身体など。容易く振り落とされそうになる…

 だが、それでも頑固に片手だけ。
 もう一方の手の方には、『戦利品』があったから…


「おお…こりゃ結構な『シャブティ』じゃねえか!」
 漸く振り切り一息付いた所で皆がちょっとした歓声を上げる。バクラが命も顧みず、後生大事に握っていた品…大きさこそ手に乗る程のモノではあるが、ずっしり思い黄金造り、しかも貴石の象嵌きらきらしい。
「しかしよ、おめェにゃまた過ぎた代物だあな!」

 『シャブティ』…高貴な人間達が墓に好んで用意する、まじないの『身代わり人形』の事である。魔術の儀式が施され、来世での労役を全て肩代わりしてくれると言う…

「坊主、こいつに『仕事』をさせようってハラか?」
「ハハッ、無理だ無理だ…オレ達の『仕事』は熟練が命だ、こんな『人形』風情にゃあ出来やしねえ!」
 明るい日の下を歩けぬ様な連中だが、村で一番幼いバクラの『初陣』の戦果なのだ…皆の口調は明るく軽い。

「またとねえ大金星だ…おめェ、しっかり持ってな!」
「…いいのかよ?」
「何、特別さ」
 ニカッと笑って男達はバクラに『人形』押し付けたが。
 しかし不意に真顔になる。

「だがよ…今夜ばかりはツイてたが、運だってそうそういつも向いてる訳じゃあねェからな」
「いいか?命の大事の前じゃあよ、王家の宝だってクソみてェなモンだ…忘れんじゃねえ」

「オレ達盗賊は来世のためでも見栄のためでもねえ、てめェの身体養うために盗むんだぜ?」



「なあ坊主、今度同じメに遭ったらよ…構うこたねえ、黄金なんざうっちゃってよ、しっかり命拾うんだな」
 無頼な連中がまるで噛んで含める様に、まだ幼いバクラに言う。
「それを忘れて命後回しにしちまったらよ…」


「それこそ無体に踊らされる、哀れな『繰り人形』みてえだぜ?」


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