炬燵
<バクラ>

 …かすかに浮上する意識の中、身体が不思議と暖かだった。
 身体の芯からほかほかと、今の季節を錯覚する程に…

「…あれ?」

 はっと気が付くと。
 炬燵の上に突っ伏して、そのまま眠り込んでいた…

(…あいつだ!)

 だって、他にいない。



「ちょっと…いるんだろ?」
 気配は無いがいない筈が無い、でなければ自分の身体が知らない内に炬燵で寝こける筈が無い。
「ねえってば………おい!」

『…おい、ってのはねェだろォ…?』

 漸くゆらり、同居人の姿…


「今度は何?何でこんな事した訳?」
『こんな、ってなァ…』
「前にぼく教えただろ、炬燵で寝てると風邪引くって」

「ぼくの身体でもあるんだからさあ…」
『…へ』

『ご挨拶だぜェ、宿主サマよォ!』

 透けた姿の『居候』は。
 睨む獏良を見返しながら…何処か愉快気にククッと笑う…


『良く言えたモンだよなァ…参るぜ』
「…え?」
『何処の誰だァ?木枯らしン中突っ切って帰って来ながらよォ、冷てェ身体のまンま玄関先で行き倒れてたのはよォ…?』

「…!!!」


 炬燵の熱が。
 とても…



「ねえ…」
『うるせェよ』
「…まだ、何も言ってない…」

 そっぽを向いたままの『同居人』に。
 獏良はそっとため息を付く…

『…寒いンだよ』
「え?」
『だからオレ様よォ、寒ィのばっかりは勘弁でよ…』

『てめえが冷えりゃ一蓮托生、こればかりはしようがねえ』
「…ん…」


「そう、だね…」



 テレビも何も付けていない、空調の音しか聞こえない…静かな部屋の中。
 す…無言のままバクラの姿が移動して、そのまま獏良の身体へと降りて来る…

 獏良は黙って眼を閉じる。
 魂が入り込む感触は幾らかあるが…何も言わない、何も。


 外は木枯らし吹いているけれど、身体は炬燵で暖かい。
 ほかほか、ほかほか…火照る位の温もりがある…
 それに。

 多分、心もまた…


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