炬燵
<子バクラ>

「うわあ…あったけー!」
「でしょ?」

「こたつ、って言うんだ」
「へ〜え…!」


 …空調完備のマンションだが冬はやはり炬燵が欲しい。
 そして何より跳ね毛の子ども、白い髪の無邪気な子ども笑顔を見て、炬燵があって良かったと…獏良は心の底から思う。
 でも。やはり気にはなる…

「ねえ…」
「ん?」
「靴下、嫌い?」
「え…」

 どんなに気温が下がろうとも、子どもはいつまでも裸足のままだった。
 服だって同じ、袖無しの丈の短い簡易な服、腕も脚も剥き出しで見ている方が寒いのだが…

「だって、寒く無い?」
「…ん…」

「だって、誰もそんなの持って無い」
「誰も…って、」
「オレ。そんなの一度も見た事無い…」


 …ナイルの流れのほとりにだって、冬はやはり来るだろう、砂漠に住めばたとえ夏でも夜は寒い。
 だけど。あの灼熱の太陽照らす地には、たとえ真冬にだって雪のひとひらだって降りはしない…

(まだ…この子の心、あの場所に残ってしまっているのかな…)

 …不意にここに現われて、もう随分時間が経ったのに…




「…あったけ〜!」
「あ…」
 ぼんやりした思考が子どもの声に引き戻される。小さな子どもは首の辺りまで潜り込んで、足をぱたぱたさせて御満悦。
「お前もさ!もっとこんなにした方がぬくくなるぜ!」
「…え〜?」
「ほら!遠慮すんなよ!」

 子どもの笑顔には邪気が無い、其処には何の屈託も無く。
 獏良に向かって笑いながら…子どもは炬燵布団を持ち上げて、獏良に来い来いと招いていた…

 …くす。


「はいはい…もう、添い寝して貰えないと眠れない訳?」
「え!…そ、そう言うつもりじゃねーよ!」

「第一さ…ここで寝るなって口すっぱくして言ってたの、お前だろ…?」
「はい、はい」

「…判ってるよ…」




 すう、すう…小さな子どもの寝息がする。
 あんな事を言いながらも、獏良が隣に横になり幾らも立たない内にこの有様。
 ずっとこれでは風邪をひく、でも寝顔があんまり安らかで。逡巡しながらも今だけは…と、炬燵布団を引き上げそっとそのまま見守ってしまう…

 靴下の一つにも違和を覚える、この子がとても哀しく辛い。
 だけど。
 ここには炬燵もあるんだし…


 何より。
 隣にいていいと、そう欲してくれるから…


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