お盆
<獏良>
あまり記憶に無いのだが、祖父母は毎年毎年八月にお盆の用意をしていた覚えがある…月遅れ盆、と言うのだそうだ。
それなりに結構本格的で、何か祭壇宜しく棚を作り、ナスやキュウリの馬やらお供えの野菜と果物やら、色々用意して。それから何故だか知らないが、食事は必ず素麺だった…
もう随分前の事だから、あまり覚えていないけど。
適当に誤魔化してしまえばいいか。
…まあ、誰も怒りもしないだろう…
ナスやキュウリは好きじゃ無い、だから家には普段無い。買って来るのも面倒なので、手作りフィギュアで代用した。それに野菜を供えた所で、喜ぶとはとても思えず…悩んだ末に結局シュークリームを大量に焼く。
部屋の一角を片付けて、小さなテーブルを置いて。用意した品々を全て並べてみる。中途半端にお盆を意識してみたから、それは何とも奇妙な眺めだった…
ああ、どうせなら。
エジプト料理を用意すれば良かったかな…
そう思って。
そんな自分がおかしくて。獏良は少し苦笑した…
帰って来る、訳が無い…
リングだって地中深くに消えてしまったから、『あいつ』と獏良を繋ぐ絆は何も無い。
それでも何かあると思いたい、いや信じたい…
「だってさ、おかしいじゃ無いか」
答える者など誰もいない、沈黙の空間に向けて文句を言う。
「あんな事があったのにさ…ぼく、わざわざこんな事までしてるんだから」
それはきっと。
自分の中に今も…
『あいつ』の何かが残っているから、そんな風に思うのだ。
「たまにはさ、顔ぐらい見せろって」
即席の『精霊棚』を眺めながら小さくつぶやく。
「さも無いとさ」
「シュークリーム、腐っちゃうからさあ…」
もう、来客のために用意した菓子を丸々食われる事も無い…それが胸に迫って来て。
獏良は声を殺して泣いていた。
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