<海馬>

 俺の専用の執務室は、KCビルの最上階に位置している。


 部屋の位置は高く、窓は広く多く…ここからは世界の全てが見下ろせる。だからこそ、世間は俺が全てを傲岸に見下さんがためにこの部屋を作ったのだと、そう信じて疑わん。

 フン、愚民どもめが。
 生憎だが、そんな凡庸の愉しみ如きで…この俺が満足するとでも思うのか?




 窓の前に立てば空が見える。何の無粋な邪魔も無く。
 やがて天空の色彩が、単調な昼の色から夕暮れへと刻一刻と変わって行く…


 夕映えの空とは儚いモノだ、たちまちにして夜の星空へと道を開けてしまう。
 だが。その移ろい行く光の中、ほんのわずかな一時ばかり…昼の青でも夜の紺でも無い、不可思議の色が空に大きく広がるのだ…

 赤味を帯びた、紫色。
 ただ厚い大気の層を通ったために多くの色を失った…ただそれだけの現象である筈が。温もりすら感じさせるのは…何故だ?

 それはまるで。
 あいつの瞳の色を思わせた…


 …遊戯…



 この得も言われん色彩が下らんモノどもに隠されるなぞ許し難い。
 だからこそ、俺は誰よりも高い場所に…なんら夾雑物が混じり込まん特別の高みに…俺の部屋を作るのだ。


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