ウロボロス
<獏良&子バクラ>
夢、なのか…?
ぼくは闇い世界を歩いていた。
「何処なんだろ…?」
途方にくれてとぼとぼと、当て所もなく歩くぼく。わずかな星明りから判る事はここが岩やら砂やらの乾いた土地だと言う事だけ…
遠くでかすかにちろちろと、篝火らしき明りがある。その炎に照らされて、武器を持つらしい人の影がかすかに見える…
まるで。古代の兵士みたいな…?
タッタッタッ!!走る足音聞こえて来て、慌ててそちらへ眼を向ける。とにかく闇くて闇過ぎて、小柄だと言う事以外見えなかったけど…
眼を凝らして見れば、それは粗末な服を着た…小さな子ども。
しかし。その容貌は…!!
一遍で、眼が覚めた。
「待って!」
風より速く駆け去るその子に必死で追いすがり、羽交い締めにする様にして捕まえる。
だって!これはきっとあの日あの時…全てが動き出してしまったはじまりの時!
「な…何するんだよ!」
見上げて来る瞳が酷く痛い。まだ、闇に犯される前の…
だから!
「駄目だよ!兵士が沢山いるんだよ!」
「知ってるさ!だけど…オレは行かなきゃなんないんだよ!」
「…駄目だよッ!!」
駄目だ、絶対に!
あの惨劇を…こんな瞳で見たら…!
「離せっ…離せよぉ!!」
大きな瞳に涙が浮かぶ…
「オレの村が大変なんだよ!」
「オレの…クル・エルナが!!」
悲痛な叫びとその涙に。ぼくは腕をわずかに緩めてしまっていた。
その隙に、小さなその子は脱兎の様に駆け出して。
…地獄の場所へと行ってしまう…!
「待ってよ!そっちへ行っちゃいけない!!戻って来るんだよ!」
幾ら叫んだってもう遅い。ぼくの声なんか届かない。
「そっちへ行ったら…駄目なんだよ…」
子どもは一度も振り向かずに。
地下の惨劇の中へと消えて行く…
「…ああ!」
どうしようも無い無力感に襲われて、ぼくはその場に崩れてしまう。
多分唯一のチャンスだった、あの子を救い出す…闇から護る、たった一つの。
ぼくひとりでは惨劇までは止められない、クル・エルナの運命までは変えられない…でも。
あの子だって。あの、凄惨な儀式を見る事無く過ごせたら。邪神の祭儀に居合わせずに済んだなら…
きっと、取り込まれる事は無かったんだ。
そしたら多分。
村人全てを失って、決して平坦な道では無いけれど。恨みだって抱えるけど…それでも彼は人間のままで。
喜びとか悲しみとか、沢山沢山積み重ねて。そうして、一生を終えられる筈だったんだ。
だけどぼくは最後の最後で。堪え切れずに手を離した…
「…バクラぁ!」
ああ、呪ってよ…ぼくを。
あの時しっかり捕まえてたら、闇に堕とすなんて絶対に無かった…
…だけど。
「ぼくは…それでもお前と出会いたかったんだ…っ!!」
遥か古代の空の下、ぼくはひたすら哭き続ける。
会いたかったんだ…本当に。
そう、お前を闇に沈めてでも、それでもぼくは会いたかった…
たとえどんなに傷つけられても、そして。
今…喪失の苦痛を得ようとも。
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