白い髪
<子バクラ>

「うっ…うっく…」
「全くさ、いつまでも泣くんじゃ無いよ!」
「そら、男だろ…?」

 小さな小さなその子どもは、全身タールにまみれていて。
 すっかり黒に染まっていた…



「泣くんじゃ無いよ!」
 村の女房連中がぼろ切れで、タールを根気良く除いて行く。子どもはまだまだ泣いたまま。
「命拾えただけでも良かったと思うんだよ!」
 口調ばかりは伝法だが、女達の表情は柔らかい。

「全く…どうしてまた、そんな事を考えるかねえ?」
 漸く本来の色を取り戻した、子どもの髪を軽く突つく。
 タールの取れたその髪は…

 アラバスターの様に真っ白だった。


「いいじゃ無いのさ!奇麗な髪じゃあ無いかい?」
「オレは嫌いなんだよ!」

 髪を染め様とタールの池まで単身向かい、挙句全身沈みかけた無謀な子どもは膨れている。
 何とか声聞き付け駆けつけた男どもが躍起になって引きずり出し、何とか命存えたものの…さんざに怒鳴られ殴られて。挙句盛大に笑われた…

「この髪のおかげで散々だぜ!『仕事』にだってさ、だぁれも連れてっちゃあくれないし…」
「そりゃあんた、髪の話と違うだろうに」
「違わねえよ!あいつら言うんだ、お前の髪は白いから、闇夜に目立っていけねえよってさあ!」
「ああああ、また…男どもは馬鹿さあねえ…」

「あんたね、それは全く間違いさ」
「…へ?」
「闇に目立つって…そら、男どもだって『仕事』の時は何かしら被って行くじゃあ無いかい?」
「あ…」

「いいかい?幾ら目立つからってね、人間の眼なんて幾らだって誤魔化せるのさ」
「だけどね、砂漠に潜む魔物の眼はいつでもきらきら光ってるからねえ…」


「良くお聞き、バクラ」
 女房達は小さな子どもに屈み込み、一言一言大事に告げる。
「お前の髪は闇に光る、魔物は競って欲しがるのさ」
「それに七つに満たない子どもはね、まだ人となるとも別な何かになるとも…決まっちゃあいないのさ…」


「だから…ねえ、お前」
 女房の一人が子どもをそっと抱き寄せる。
 父も母も亡い子だけれど、一番小さなその子どもは…村人全ての息子でもあった…

「その髪捕まえて呪うんじゃ無いよ、それは大した授かり物なんだからねえ…」


「…砂漠の魔物が、腕を伸ばして盗ろうとする位にさ」


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