…アニメの乃亜のエピソード思うと切ないですが。


天の川のほとりにて 3



 古風な星図が動き出す、命を吹き込まれて生き生きと。
 モンスター達が嬉々として、星の海にて踊り出す…

 海竜神が泳いだり、要塞クジラが浮上したり。
 乙女座がホーリーエルフに姿を変えて、暴れるモンスターを宥めてくれたり。
 それから、それから。
 牡羊座からは羊トークン、星の海をふわふわしたり。
 時計座からは時の魔術師が、そして矢座から魔法効果の矢が飛び出したり…!

「ハハ…ハハハハ!」
 モクバが笑う、駆け抜けながら。
 何処までも続く夜空の中、大好きなカード達に囲まれて。
 次々新しい物語が紡がれる、楽しい楽しいギャラクシークルーズ…!

「乃亜ー!」
 息が切れそうな程走りながらモクバが見上げて呼び掛ける。
「オレさ、オレさあ…スゲー楽しいぜい!」
『フフ、気に入って貰えて何よりだよ』
 普段は大人びた少年も嬉しそうに笑み返す。
『ボクもね』


『どうせなら…本当に宇宙旅行したって無理な光景、見たいからねえ…』
(え…)


 台詞の裏にかすかな寂寥、不意に胸を突かれてしまう。
 そうだ、この少年は…


「…あれ?」
 急にモクバの頓狂な声、慌てて向き直れば唐突に、辺りのモンスターが消えていた。
「乃亜…?」
『…ああ』

『丁度、一周してしまったからねえ』
 す…白い装束の少年が音も無しに空間滑る。
 慌ててモクバと遊戯達もその後を追って歩き出した。




 今、周囲にモンスターの姿は無い。
 ただ星座の位置を朧に示す、星図が描かれているだけで。

 そんな中、丁度天の川のすぐ近く、半人半馬の姿がある。
「あ、ケンタウルスだぜい!」
 遊戯も同じくそう思い、モクバを追って駆け出したのだが…

 ふっと星図から動くもの、しかし先とは少し違っている。
「…あれ?」
 似た姿なれど思慮深い、威厳すらたたえた眼差しが。
 二人を静かに見下ろしている…

「賢者…ケイローン…?」
『…そう』


『さっき、言い忘れてしまったけれど。この辺りには色々秘密があってねえ』
「秘密?何だよそれ!」
『ダークマター…暗黒物質と呼ばれるモノの密度が酷く高くて有名でね』
「…何か、ワルっぽい名前だぜい!」
『いやいや、それは一面的な見方だよ』
 乃亜がにっこりと笑う。


『確かに。ダークマターと言うモノはね、文字通りの暗黒で。光と言う光を全て吸収し辺りを闇に染めてしまう…』
「やっぱワルじゃんかー」
『フフ…』


『だけど。それだけでは無いんだよ?』


 カツン…何処か厳かな蹄の音。
 はっとして見れば賢者ケイローン、厳かに盾をかざしている。
『およそ、この世に存在するもので無用なものなんて一つも無い…どんな存在にも意義がある…』
 静かな、けれど不思議と胸に迫る乃亜の声。
『そのことわりを。ご覧、賢者の盾が示してくれるよ…』
 ケイローンの真理の盾が。暗く広がるダークマターを映し出す…


 …と!
 盾に映った宇宙の闇が不意に大きく広がって、外へ外へと飛び出して!
 あっと声を上げる間も無く。輝く線で描かれた古風な星図が闇に喰われて消えて行く…

(うそ…!)
 悲鳴を上げかけた、けれど。
 次の瞬間、口をついて出て来たのは全く違う叫びだった。


「うわあ…!」


 光る絵画が消えた後、再び暗い宇宙が戻って来て。
 闇を背にして星々が。より一層輝きを増す…!



『判ったかい…?』
 こくこくと、夢中で頷く…あんまり星が綺麗だから。
『闇は光を際立たせる…ほら、宝飾店でも見た事があるだろう?あえてバックを暗く作って…闇色のベルベットにそっと置かれた真珠の首飾り、その清楚な輝きと言ったら!』

 ああ…本当に。
 漆黒の宇宙に銀河が映える、まるで本当に首飾り…

『銀河は天のみすまる…天の川は夜空の首飾りだと言うけれど、こうして見ると真実だねえ…』


『ケンタウルス座、あの辺りにあるダークマターの御陰でね、天の川が一際美しく見えるんだよ…』


 …ああ…!


 何だか涙が零れそう、星があんまり眩しくて。
 ううん、それだけじゃ無い。もっと深く、心が震えてしまったから。

  『この世に存在するもので無用なものなんて一つも無い…どんな存在にも意義がある…』

 ひどくしみ入る暖かな言葉。
 そう…そうなのだ。

 こんなちっぽけな自分なんかが傍にいて、許されるのだろうか…今だにかすめる苦しい不安。
 けれど。こんな小さな自分でも、もしかしたらもしかして。あの青い輝きのさらなる羽撃きを、支えられるかも知れない。
 きっと微々たるものだろうけれど…


『…やれやれ…』
 不意に大きなため息が、乃亜が何故か苦笑中。
「乃亜くん?」
『…全く、キミは本当に…』
「え…?」
『…いや』


『また、新しい趣向を試してみよう』





 いつの間にか。ケイローンの姿も消えていた。
 ただ、きらきら輝く天の川、そのさやけき光ばかりが其処にある…
『…東洋の神話にはなかなかダイナミズム溢れるエピソードもあってね、』
 ゆっくりと、見上げながら…乃亜。
『神々がね。地上の民のために…天上の大河を地に降ろしたと言う…』
「って、川をかよ!?」
『そう』

『ぼくもね』
 乃亜が腕を大きく掲げて行く、その仕種は何処かまるで。
『神のひそみに倣ってみるとしよう…』
 まるで。魔法を起こすよう…


『来(きた)れ!天のみすまるよ、銀の水面をたたえし河よ!』
 強い声に辺りが震える、星も呼応し鳴動する。
『来れ、彼方から此方(こなた)へ…我、汝を天球がくびきより今こそ解き放たん!』
 カッ…!
 星が一層眩しく瞬いて。
 銀の大河がぶるりと震え、そしてどうとばかりに倒れて来た…!


「わあ!?」
「…スゲー…!」


 さらさら、さらさら…どんな清流よりも澄んだ音、見た事も無い川が流れて行く。
 星がきらきら光を放つ、神秘の水面を流れて行く…

 ここは素敵で不思議なひろうい河原、天の川の流れるほとり。




「スゲー…ほんとにスゲー…」
 最初こそ口をぱくぱくさせていたがモクバの眼が輝いて来る。
「川…ホントにマジで天の川じゃん!」
 ダッ…興奮のあまりモクバが駆け出す、天の川に向かって飛び込もうと…
「モクバくん!?」
 慌てて止めようとした遊戯だが、乃亜にやんわり止められた。

『興を削ぐ様で申し訳無いけれど…ほら』
「…あ」

 光の幻影にダイブする、しかしモクバの身体はやんわり着地。
 はしゃいでやたらに手足をばたつかせても、何かが衝撃和らげて。

『キミひとりで。大変な作業だったけれど…』
「…ううん」



「だって、モクバくんの誕生日なんだもの!」



 …そう、元々乃亜に頼まれて、遊戯が『準備』をしたのだった。
 どうやらKC特製の素材らしい、ひんやりした感触のクッションを運び込んで、乃亜の指示で並べて行って。
 秘密厳守と言う事で、ほとんど全ての作業を遊戯ひとりで行なった、目的も判らない作業は確かにかなりの労力を要したが、モクバの輝く笑顔を見れば労苦も報われる…

『全て。キミの御陰だよ』
「え?」
『だって、そうだろう?』

『ぼくが操れるのは幻だけさ…リアルの物には触れる事すら出来ないからね』
「乃亜くん!」
『何せぼくは…』
「止めて!そんな事…そんな事言わないで!」
『フフ…キミは本当に優しいね…』


『だけど、案ずる事なんて無いからね』
 乃亜の。穏やかな…まなざし。
『具象の物体にはお手上げだけど、それでも見えないものには触れられるからねえ…』
「見えない、もの?」



 見えるけど、見えないもの…?



「おーい!」
 モクバの元気な声がする。
「こっち来いよ遊戯!スゲー楽しいぜい!」
「あ…うん…」
 少し困って乃亜を見ると、ゆったり微笑み返された。
『ぼくがデザインしたアトラクションだからねえ…詰まらない筈無いだろう?』


『行っておいで…』
「え…」


 天の川がきらきら誘っている…堪え切れずに遊戯も駆け出す。
 …乃亜の言葉が気になってはいたけれど。



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 アニメの乃亜、誕生日プレゼントがバーチャル宇宙旅行でしたよね…
 バーチャル宇宙で見た光景を「父さまにも見せたかったなあ」…って興奮気味に語って、でもデータ入力の時見てたんだってすぐ気が付いて、自分で苦笑しちゃってるシーンが印象的でした。乃亜って頭がちゃんと良くって理性的な子だから、こう、自分を誤魔化せないってのが辛くて。
 それともう一つ、「父さま」から貰ったプレゼントだから…と、意識的に楽しんでいると言うか。所詮バーチャルって事を誰よりもよく判っている筈なのに、一生懸命喜ぼうとしてる感じがして。それも痛くて…考え過ぎかも知れませんが。

 まあ、話の中では割とさらっと流しちゃってるエピソードなんですけどね。
 でもそれ思うと。今回すごいむごい事やらせちゃった気がするです(;;)


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『へっぽこカイオモスキー』たんぽぽ太郎
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