※表ちゃんお誕生日企画!と言いつつ、元々2007年用のでした…折角なのでリサイクル(^^;)
※まだまだ序盤で済みません…誕生日企画ならぬ誕生月企画(ーー;)

KC☆Earth(1)


 重く湿った大気を切り裂いて、白銀の翼が飛翔する。
 風よりも速く雲の上、超高速で行きしは高性能ジャンボ機…機体の上には燦然と、輝くロゴは「KC」のマーク。
 無論、卓越せしは飛行能力ばかりでは無い。五つ星ホテル並の行き届いたサービスは言うに及ばず、アトラクション用の技術を応用した世界最高峰の振動吸収システムやさらにKC純正ならではの最新ゲームコーナー、さらにソリッドビジョンシステムなど…まさに夢の様な別世界。
 だと、言うのに。

「ううう…」

 …遊戯は居心地悪そうに身じろぎする。



「こんな…こんなつもりじゃ、なかったのに…」
「…ほう?聞き捨てならんな!」

 ニヤリ、笑みを含んで聞き返すは…隣席に陣取りし、海馬。

「これでもそれなりに贅を尽したつもりだがな…どうやら不満と見える!」
「ち、違うよぉ!」


「そうじゃなくて…」


「結局…海馬くんにすごく無理、させちゃった…」
「…見くびるな」


「第一」


「無理難題、そう言ったのは…お前の方なのだぞ?」
「…ううう!」


 人の悪い笑みを一層深める海馬とは逆に、遊戯は半分泣きそうな顔で思わず頭を抱えてしまう。
 あの時。言ってしまった台詞をひたすら悔やみながら…




 …事は。
 およそひと月ほど前に遡る。






 春が過ぎ、冬の名残りも消え去って爽やかな新緑の季節となり、さらに梅雨の便りが近付く頃の事だった。

「わあ…!」
 思わず歓声を上げてしまう、眼の前に広がるは空からの眺め、初めて見る土地の航空写真。
 …とある地図サービスにアクセスしていたのだ、ただの記号の羅列では無い、リアルな世界が見える地図。
 地図上を動けば町並みも流れる、まるで空飛ぶ鳥になったかのよう…楽しくなってついついあちこち寄り道を。
「…あ」
 うっかり机上世界一周旅行を始めかけた所で。当初の目的を思い出した。
「も〜、ボクってば」




 …KCの開発チームに参加する様になってから、遊戯の世界がまた広がった。
 プレイヤーとしての腕を買われた部分が大きいし、実際思ったよりも手伝える事が沢山あった、だけどもっと頑張りたい。
 もっと、出来る事を増やしたい。もっと、手伝える事を…そう思って始めたコンピュータ、大分上達したと思う。


 …勿論、教えてくれるひとがいたからだけど…


 自分の生きてるこの世界が。どんなに大きく広がっているか…判る様になって来た。


「こんな事だって…前は全然知らなかったし」
 …本当の所、KCサーバーにはもっと優れたデータがある、何せ超高性能な衛星すら、自前で飛ばしている程だから。
 でも。スタッフオンリーのラボの中、見せて貰った色々なもの…プログラミングの事だって、こっそりちょっとづつ勉強して来たから、本物の凄さが今では良く判る。以前のままの自分だったら、この地図との区別がきちんとは付かずに同じ様にただ驚くだけだったろうけれど…今は、違う。


「ほんとうに…凄い、よね…」


 前に進めば進むほど、判って来るその高み。
 …昔。ただただ遠いと憧れ見上げていた頃よりも、びっくりが止まらないほど。
 だけど。だからって竦んだり…なんてしない、もうあの頃の怯えた自分じゃない。

 高いところ…行けば行くほど先がある、さらなる高みが待ち受ける、でもだから頑張れる。
 飛び続ければ翼が痛む…けれど無駄なんて事は絶対に、ない。



 …カチリ、ブックマークを一つクリック、途端広がる童実野町。
 住み慣れた町並みの中で一際目立つ、天に聳える先鋭のフォルム…KCの本社ビル。
 地上からの眺めより鮮明な、ハイテクの牙城の姿…ちゃんと、屋上のヘリポート、海馬の愛機の細部まですらはっきりと!


 まるで。天高く飛翔する鳥の眼で見た世界のよう…


「海馬くん…」


 …新しい景色を、くれたひと。







「あれ…?」
 検索窓に打ち込む、キーワード。本来の目的地を目指そうと、試行錯誤を繰り返しても…結果はどうしても変わらない。
「う〜ん…」
 リストに並ぶは先の本社ビル、それに何度も連れて行って貰った…各地のランド、勿論とっくにブックマーク済み。
「作ってる最中って…駄目なのかなあ…」
 画面を切り替え座標検索に、正確な緯度軽度は判らないからおおまかに、地図を開いてマウスでぐりぐり。
「うう…やっぱりちょっと…無謀かも…」
 何の手がかりも無いままに当て勘で…と言っても無意識に、地形情報からの推論だが…それらしい地点を探って行く。一つ、二つ、当てが外れて駄目押しの最後、低解像度の写真の中に。やっと巨大人工物らしき影…!
「これ!もしかして…!」
 慌てて拡大、さらに一気にスクロール!細かな座標確認する間も惜しくて惜しくて、画像の更新も待たずに見当だけで一気に移動…これでやっと判る、今必死の海馬が居る筈の場所が!


 …なのに。

「え…」

 …ない。


 作りかけの建造物がある筈の場所、それらしい敷地の輪郭は確かに判る…けれど本当に『輪郭』だけ。
 細かな陰影に至るまで精密に映した写真の中、その一角だけ。
 ぺたりと塗り潰された様な…不自然に白い、空虚な土地。
 それ、だけ…





 …超大型の重要プロジェクトが始まったと、聞いたのは先月だった。

『連絡は一切するな』

 素っ気無い言葉、いっそ冷たい程。
 でも、だから良く判った、今度の仕事の困難を。

 …邪険にされた訳ではない、それ位で怯えていた頃の遊戯ではない、隠された意図にすぐ気付く。
 確かに。今は多分力になれない事だろう、同時に海馬の負担も激しい筈…だからこその、冷酷の仮面。

お前に。無用の心配なぞかけさせたくない…

 言葉の奥の真摯が判っていたから敢えて何でも無い振りして頷いた、今はまだ…そう思って。


 ただ。
 事は、思った以上に極秘だったらしい。その後は搦手(からめて)でも何でも本当に、全く連絡付かなくなって。
 それでも遊戯が得ている権限なら、多少の強引を覚悟すれば…KCサーバを通して見当を付ける事は出来る筈、しかしそれはそれで問題が。

 海馬は。遊戯が案じる事をこそ案じていた…だから、心配している事を知られたく無い。
 けれど。KCの機関を通してアクセスすれば、当然海馬に筒抜けに。

 それで一般サービスを通して遠回りに、探索を試みたけれど…


『連絡は一切するな』


 …あの時はちゃんと頷けた海馬の台詞、けれど今は酷く突き刺さる。
 そんなつもりで言う筈ない、それは勿論判っている。だけど、それは頭だけ。


 自分が拒否された訳ではないけれど、不自然に塗り込められた地面が心に辛い。
 かつて。この世の醜悪を幾つも見せられて来たあの青の瞳が。また、世界に背を向けてしまったかの様で…


「海馬くん…」

 …胸が。
 きゅっと痛くて。
 心が。苦しくなる…




 そして。
 …KCモバイルの呼び出し音が鳴ったのは突然の事だった。


 >>2へ続く…


 物凄い途中で済みません…が、頑張ります!

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