※うお…またそんな展開(TT)

KC☆Earth(3)


「…!」
 ウインドウ越しとは言え久し振り、とても逢いたかったひと。でもその顔色を見て絶句する。
「海馬くん…!」
 …対して、返事は無い。


 海馬の顔色が優れないのは…遊戯にとっては辛い事だが…そう珍しい事では無い。
 異常とも言える程の仕事振り、さらには自分の身体を全く顧みない生来の悪癖も手伝って、いつも体力・生命力の際にいる。
 それでいながら妙な所で心配性、遊戯の事を気遣って、とてつも無い痩せ我慢をして見せるのが常だった。
 …なのに。


『遊…戯…ッ』


 画面の中の海馬は。やつれ憔悴しきっていて。
 今にも崩れ落ちそうで。
 声も。やっとで絞り出す様だった…


 モクバに『トクシュニンム』を頼まれた時より、事態はさらに酷くなっていた。





 …あの会話の頃はまだ余裕があったのだ、実際日本では特に目立った報道も無く、だから遊戯も気付かずいた訳で。問題は作業の遅れだけだった。
 だが今度は違う、日本を含めメディアの喧噪が酷く騒がしい。


『俺とした事が…無様に過ぎる…ッ!』
「海馬くん!」
『たかが風聞だと…放置して来た…この俺の…』
「違うよ!そうじゃ無くって…」
『…罪業だ!』


 『たかが風聞』、確かに初めは一部で囁かれた、噂の一つに過ぎなかった。
 確かにライバル企業には利用されてしまった、足下すくわれる原因にもなった…それでも広く報道される事は無かったが。
 誰かがネットで面白半分に書き立て火が付いて、世界中に広まったのだ…


  <KCが 新アトラクションを作ると称して その実 秘密裏に 軍事工場を作っている>


『確かに…謂われ無き中傷とは…言い切れんからな…』
「そんな!今は全然違うよ!」
『だが…生憎KCも…臑に傷持つ身だ…』


  <KCは アミューズメント企業の仮面を隠れ蓑に 開発した技術を 戦争に使っている>


『我が社の前身は誇れんモノだ、それは厳然たる事実だ!』
「それは…」

 かつてのKC、その軍需産業における影響力は決して低くは無かった、都合その歴史は隠し通せるモノでは無い…一般にはあまり知られて無いものの、業界通にとってはほぼ常識。だがそれは現在のKCのイメージ戦略上、アキレス腱とも言える部位。
 海馬とて無為に放置した訳では無い、消せる過去は余さず粉砕、さらにその上に栄華の金字塔、ゲーム産業における数々の成功を打ち立てて、新たなKCの地位を揺るぎないものとした。

 そう、揺るぎない…
 この磐石が、一介の噂程度で揺らぐ筈が無いと。そう自負していたのだ。
 …だが。


  <KCは ひとごろしをつくる 会社だ>


『あながち…根拠なき中傷とも…言えんな…』
 ククク…皮肉な笑いを浮かべながら。
『何せ…俺の開発したシミュレーターは…今も紛争地域で…』
「だけど昔の事だよ!それに海馬くんの意志じゃない!海馬くんが望んだ事じゃないよ!」
『だが同じ事だ…』


『醜聞なぞ。断片的な事実があればいい…むしろ事実が無くとも情報さえあれば構わんのだ』

『あとはただ。醜さを求める本能が、頭の中で勝手な筋を組み立てる…』


『人は。所詮、見たいモノしか見えん…愚かな生き物なのだ』
「海馬くん…」
『俺とて。大して変わらん』


『かつての俺は。お前をまるで見んでいた…』
「…え?」

 急に話が自分に向いて、戸惑い眼をぱちくりさせた。




『俺は心底愚かだった、手を伸ばせば届く所に至高の輝きありながら。まるで、気付かず盲(めしい)ていた…』
「海馬くん…?」
『お前とて。忘れた訳ではあるまい』

『俺が。お前にしでかした数々の悪行を…』
「…海馬くん!!」
『とても許されるモノではない』

「違う!」
 …何度も繰り返された会話、その度に胸が詰まる。
「海馬くんは悪く無い!ちっとも悪くなんか無いよ!」
『お前を手酷く傷付けたのは事実だろう』
「そんなこと!絶対ない!」

 もう忘れて欲しい、自由になって欲しい…彼を捕らえるDEATH-Tの呪縛が辛くて痛い!
 こんなにも叫んでいるのに、届かない…!

『…違うな』


『俺の最大の罪過は。お前が差し伸べたその手を疑った事だ』





『俺は俺の眼でしか見んでいた、それも…腐った泥にも等しい濁り切った眼球でな』
「海馬くん…」
 去来する、沢山のこと。

 モクバから聞いた過去の出来事、澄み切った眼をした少年が否応も無く見せられて来た様々なこと。
 …遊戯は知っている、当の本人が語らずとも。
 人一倍、純真で聡明で。穏やかな笑顔が似合うあの少年にとって…むき出しのリアルの直中に投げ込まれたのはどれ程の事だっただろう?
 勿論、本人は否定するだろう、『投げ込まれた』のでは無く『自ら』『踏み込んだ』のだと。けれど同じ事、温もりが一番必要な時に冷たい刃にさらされたのだから…
「それは…海馬くんの所為じゃないもの」
『…お前はいつもそう言うな』

『だが俺は。歪み切った視界こそが真実だと、信じて疑わずいた』

『己の疑心のままに全てを…』



『お前が無心に伸ばしたその手を。下心あっての事だと…愚昧にも邪推した』



『人は。所詮、見たい様にしか何事も見えん、愚かで卑小なモノなのだ…』
「海馬くん…」



 淡々とした声ながら何処か血を吐く様な独白が。
 痛くて、とても悲しい。





(海馬くん…)
 重く辛い沈黙、理想郷を目指す真摯な瞳の前に降り掛かる、有象無象の様々なこと。
 何が出来るだろう?…決して弱い彼ではない、それでも今はまるでスパイラル、昏い深淵の渦の中に沈み切ってしまいそうで。
 どうしたら…きゅっと眉寄せ彷徨う視線、ふと今まで作業していた画面が視界の中へ。
 例の、写真が見える地図サービス…
(あ…)


「海馬くん…海馬くん?」
 …キーを素早く操作する、そっと呼び掛けながら。
「ちょっと…見て欲しい物があるんだけど…」
『…何だ?』

 のろのろと…ではあるが、海馬が再び顔を上げる。どんな消沈の折にも遊戯の呼び掛けに応えてくれる、その真摯さが。切ないけれどやっぱり嬉しい。
(こんな大変な時に…不謹慎だよボクってば)
 勝手に増す体温に動揺しつつも、ディスプレイ一杯に目的の画面を広げ、さらに幾つかコマンドを。

「ボクの画面、海馬くんの方に送るから!」




 ぱっ…と。画面同期の開始を告げる小窓が開く、これもまた、最近になって覚えたこと。
 グループ作業の最中に、離れたマシンへリアルタイムの画面を送る、あたかも相手のウインドウの一つの様に…こちらのデスクトップが相手のディスプレイの中に現れて。全く距離も感じさせず…相手がこちらの画面の操作する事さえ、簡単に出来てしまう。


 …慣れない頃は良く助けて貰った、訳の判らないアラートが出て来るばかりで全くお手上げそんな時、出張中の海馬がやはり同じ様に同期をしてくれて。さらりと魔法の様に遊戯の画面を操作して…泣きそうだった状態を、呆気無いほど簡単に解決してくれたものだった。
 凄いや…!興奮気味に言えば例によって、淡々と…むしろ渋い位の顔で返された、大袈裟に過ぎるぞ、お前は感動の閾値が低過ぎる…と。さらにその上こうも言われた、勝手に踏み込まれた事に少しは怒れ、お前の無防備さは既に犯罪の領域だ…と。
 そんな事ないよ、ボクとっても嬉しいもの…!そうきっぱり返せば。ぽつりと呟かれた…

 お前の側に行けん、代償に過ぎん………と。


「…海馬くん見えてる?画面、繋がった?」
『ああ…?』
 少し、戸惑っている様な海馬の声。それはそうだろう…遊戯が見せたのは広大に広がる航空写真、例の地図サービスのその画面。今まで話していた、深刻過ぎる話題とは随分と毛色が違い過ぎる。

 …でも。

「高〜い所から見た風景、鳥になったみたいでしょ?」
『遊戯…?』
「…えへ☆」


「これも。海馬くんがくれた、景色なんだよ?」
『な…?』
「いつも蹲って、遠い空を見上げるばっかりだったボクに…」
『…!!』



「ボク…ボクね!昔は思いもしなかったんだ、こんな風に見えるなんて!」
 …届かないと、ずっと思って諦めていた、勝手に自分の周りの塀を高くして。
「それに高い所なんて怖いばっかりだって思ってた、ちょっとでも油断したらすぐ!真っ逆さまだって…」
『…確かに否定は出来んがな』
「でも!」

「おっかなびっくり登ってみたら!すごく、すごぉ〜く!色んなものが見えて来て!世界が…勿論、最初から広いって思ってたけど…もっともっと、大きくてきらきらしていて!何処までも何処までも広がってて!とにかく、眼が回っちゃうほど凄くって!」
『…相変わらず大袈裟だな』
 呆れた様な物言い、けれど海馬の口元には微かな笑み…後少し、もうちょっと!
「しかも、ね」

「こぉんなに…ボクの手なんかじゃ届かない位、何処までも広がっているのにね、なのに怖い気持ち、全然無くて」
 そっと、両手を胸に当てる…思い出す、沢山の事。
 これまでの歳月で、一体どれほど景色を広げて貰った事だろう…!
「…代わりにね、すごく嬉しくてどきどきしちゃうんだ☆」



「判る…?」
 想いを…籠めて。
「ずっと、無理だって思ってたんだよ…ボクってとってもちっぽけだって、海馬くんの隣なんて歩けない…って」
『遊戯!?それは…!』
「でも。今は違うよ」

 今でも、変わらず孤高のひと…見上げる内に胸は憧れで一杯に、けれどもうそれだけでは無い。

「ボクが立ち止まらなければ。きっと、ずっと一緒に歩いて行けるって」
 …遠く離れて見えたのは全部自分の臆病の所為、眼を開ければすぐ其処に、必ず姿があったのに…
「眼をぎゅっと瞑ってしまったり、膝を抱えて俯いたりしなければ…必ず海馬くんは居てくれるって」


「ボク。もう…怯えたりなんか、絶対しない」
『遊戯…!』


『…そうか』
 軽い驚きの後はいつもの苦笑、呆れ混じりの…でも穏やかで暖かな。
『随分と。手間を掛けさせてくれたモノだな?』
「…もう!」
 いつもの口振りに少し笑って…


 …再び。表情を引き締めた。




「海馬くんは…海馬くんはね、だからもっと自惚れていいんだよ」
『…何?』
 驚いた声、唐突に聞こえたのは判っているけれども。
「ボクだって。ボクなんか絶対駄目だって、ずっと思い込んでいたのに…海馬くんが引き上げてくれたから」
『俺が…だと…?』
「うん!」
 ずっと。分不相応だと、隠れる様に縮こまっていたのに…
「今なんか、もうすごく自惚れちゃってるもの!」
『お前が…?』
「だって!」
 改めて言うのはちょっと恥ずかしい、でも!
「ボクだから…海馬くんもボクの前だから。あんな風に話してくれたのかな…って」
『な…』

 虚を突かれた風な表情がややあって大きく変わって行く…いつもの、傲岸不遜極まる雰囲気に。

『…フン』
 ニヤリ。
『それなりに。進歩はした様だな?』
「う…」
 余裕めいた低い声、たちまち頬が熱くなる…でも、今はもっと、大切な事!
「ボ…ク…」


『頼んだぞ〜、遊戯!』

『トクシュニンム、期待してるぜい!』


 …うん!


「ボク!今すご〜〜く自惚れてるから!物凄くワガママも言っちゃえるんだ!」
『遊戯…?』
 戸惑う様な海馬の声、本当は自分だって恥ずかしい…うちひしがれているひとに、何て図々しい話!
「ボクの…誕生日プレゼントのリクエスト!」
『な…!!』

『遊戯、俺は…!』
 …傲然とした自信は何処へやら、一転苦しげな海馬の声。勿論知っている、遊戯は痛い程…けれどモクバも言っていた通り、安易なアシストはむしろあの澄んだ青の双眸の枷となる。
(…っ…!)
 本当は悔しい、でも厳然とした事実。自分が行った所で間に合わない何の助力にもなれない事、結局の所彼自身の翼しか、彼をこの地獄の淵から救いだせないと言う事…誰よりも深く知っているのだから。
『スケジュールが…今度こそ、無…』
「もう無理難題!海馬くんに突きつけちゃう!」
『ゆ、遊戯…!?』


「いい?ものすごぉ〜く!無理難題だから!ボクが見た事も無い様な、とってもびっくりできらきらなもの!そうじゃないと許さないから!」
 …言いながら半分泣きそうな心地になる、本当に無茶も良い所。形なき敵…風聞と言う厄介極まる怪物と絶望的な闘いを強いられているひとに、何てお気楽極楽な。けれど、本当に真摯な眼差しのひとだから、妥協を潔しとしない人だから…生半なはったりでは不足に過ぎる。
「だけど!中途半端は嫌だよ…もう凄く!ホントに!徹底的に…幾ら時間掛かっても佳いからとにかく凄くびっくりなプレゼント!」
 手振り身振りも交えて、もう必死!
「時間なんて、楽しい事だったらずう〜っと待てるから…だから、急いだり慌てたりなんかせずに、ボクが…」
『…ふむ』


『その言葉に。嘘偽りは…よもやあるまいな?』
「…え」
 最早、通信開始時の焦燥は欠片も無い…愉快そうな含み笑い。
『成る程、デュエリストに二言はあるまい…ククク面白い!』
「か、海馬くん…!?」
『…フン』


『お前の言う無理難題、実にレアで興深い!特別に聞き届けてやる…心しておけ!』
「え…あの…?」
『お前が卒倒する様な驚愕の品を!必ずや用意してくれるぞ…ワハハハハハハ!!』
「ちょ…ちょっと…!?」





「…海馬く〜〜〜ん!?」





 プツン…慌てて聞き返すより先に唐突に、通信切断一方的。無論、悪い事ではない…海馬の瞳には覇気がある、闘いに赴く昂りが。実際悪い戦略では無かった筈、あの全てに厳しい人にしてみれば「待ってる」の一言だけでは逆に辛い痛みになる、むしろ新たな羽撃きの助走となれる様な…なれたとは思うけれどもそれにしても。
「薬…」


「効き過ぎ、ちゃった…?」


 はああああ…思わず溢れるため息、盛大な。
 元気になってくれるのは嬉しい、苦悩の様は見ていて辛いから…でも。
(これから。何が始まっちゃうんだろう…?)
 いささか以上に戦々恐々、内心頭を抱えてしまっていた。


 >>4へ


 …う〜ん、ワガママで喝入れって一般的には微妙な気もしますが、表ちゃんのワガママなんて超レアですから!言われちゃったらそらエンジンも掛かりますし気分もエラい切り替わるんじゃないかと。それに社長ですからねえ…立ち止まると死んじゃいそうな人なので、むしろ走るべき目標を示して上げた方が佳いのかも。

 あ、あとそれと!この話の表ちゃん、大分PCに詳しくなってますけれど、色々勉強する傍ら、しょっちゅうKCの開発チームに参加していると言う設定で。社員じゃあ無いし、元はテストプレイ専門だったのにもっと海馬くんの役に立ちたいよ!って事で色々習ったと言う次第。随分上達して来てるんですけど、社員では無いので、極秘プロジェクトの時とかは蚊屋の外になってしまう…それで音信不通になって久し振りに話ししてビックリ!みたいな事も。
 社員でいいじゃん、パロなんだしさあ…!と思わないでも無いですが、今回みたいな事件だって、表ちゃんが外部にいたからこそ力になれた気が。

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