円卓なやつら (1)


 俺はパーシヴァル、神官戦士だ。ここFWではちょっと有名なパーティー、「アヴァロンズ」に属している。名前の通り、全員アーサー王伝説ゆかりのハンドル名乗っていて、しかも元キャラをいい感じにアレンジして、職業も種族も癖のある奴を選んで見事に自分の物にしていて、自分から言うのも何だが結構な実力者が揃っている。リーダーの名が「アーサー」で無い所も割とイケてると思うぜ?しかも女キャラで美人で強くて頭も切れると来てるから。(ネ○マだけどさ…)
 ただ出る杭はなんとやらで俺ら結構あちこちから睨まれている。

「アバロンを名乗るとは図々しい!」
(てゆーか「アヴァロン」だろ?Vの発音は正確に)

「何故アーサー王が不在なのだ!王なきアヴァロンなど俺は認めん!!」
(いいだろ別に)

「円卓の騎士を名乗るなら全員騎士にクラスチェンジしろ!」
(嫌だよそんなバランス悪そうなパーティー…)

「女は除名だ!」
(今どき女一人もいないパーティーなんて無いって!いた方がビジュアル的に楽しいしさ…ネカ○だけど)

「原作知りもしない癖に!」
(言っとくけど俺ら全員、最低でも「アーサー王の死」位は熟読済みだぜ?お前らこそアニメしか知らねーんじゃないのか?)

 などなど、俺等宛にはそんな無記名メール(でも出所は良く調べると見え見え)がバンバン来やがる。来てもいいが、最近は仕事の邪魔までされるようになって来た…


「皆さん、どうなさる?」
 割合簡潔な依頼メールを読み上げたのはリーダーのヴィヴィアン。ピチピチの黒のドラゴンレザーが相変わらずいい感じ。…ネ○○だけどさ(涙)
 どっちにしろ、俺も含めて今はそんな与太考えている場合じゃない。皆一様に、考え込む様に押し黙る。
 仕事の内容が内容なのだ。

 FWで「暮らす」プレイヤーの常として、俺等も冒険者稼業に手を染めている。
 別に趣味でゲームをしている訳だから、現実の冒険者の様にきりきり稼ぐ必要も無いのだが、FWはとにかくプレイに金のかかるゲームなのだ。俗に「フォーチュン貧乏」と言う位、ン十万の単位で金が消えて行く。良い装備、特に魔法宝物程値段も高く、手頃なダンジョンの情報だって買うのに随分するものだ。それだけならば現実の冒険者と同じだが、何せここは電脳世界、「接続料金」「会費」等と言うおよそ冒険らしくない名目で懐から札束がむしり取られて行く。言って見ればヴァーチャル世界に「住む」ための家賃と思えば納得も行くが、俺等だって素直に自己破産の道バクシンしてやる気は微塵も無い。
 だから俺等は冒険者稼業で稼ぎまくる。ヴァーチャルな通貨「ゲル」は畢竟ここでしか使えない通貨だが、無論ここでの装備や食事に宿泊、電脳世界での支払なら何でも出来る。その上、この「ゲル」実はプールしてあるプレイヤー達の会費とリンクしてあって、「ゲル」で持って接続料金などFW限定のリアルな決済が出来るのだ。要は他人の口座から自分の口座に金が移るだけなのだが、ヴァーチャルで溜めた金がリアルの生活の足しになるのは結構面白い。もっとも強力なプレイヤーばかりが儲かる弱肉強食システムな訳だが、俺等だって昔は初心者、随分と無駄金使って苦労したものだし、第一俺等の方がネット帯空時間もリアル生活犠牲度もヴェラヴォーに高いと思うぞ(苦笑)
 実際問題として法的にも治外法権な電脳世界、公僕にもどうしようも無いトラブル山積みで、化け物退治や遺跡荒しの他にも色々依頼がやって来る。ここ暫く有形無形の妨害で、「美味しい」仕事が全くと言っていい程絶えて久しく、困窮の極みにあった俺達だから、久しぶりのまともな仕事依頼、渡りに船と言いたい所だが…

「黒妖犬(ブラッグドッグ)ねえ…」
 ヴィヴィアンがもう一度ため息を付く。

 ここ半年かそこらで急激に黒妖犬(ブラッグドッグ)の数が増えた。知能が高く、魔法も扱うモンスターだが幸い防御力はさほど無く、直接攻撃を加えられればレベルの低い戦士でも割合簡単に倒す事ができるるし、無駄に人相が怖いために倒す方も(余程の犬フェチでなければ)罪悪感も感じずバッサリ出来る。倒した時の経験値もなかなか魅力で「人気」モンスターの一つでもある。
 だが最近、黒妖犬に返り討ちにあうケースがやたらに多い。別にレベルの高い変異種が出だした訳でも無く、単純に徒党を組む様になったのだが…
 野犬どもを引き連れる様になったのだ。

 野犬は、それこそ黒妖犬の比で無く弱く、下手をすれば素手でも倒せるキャラクターである。倒してもこれと言って自慢できる訳でなし、特にレベルの高い連中は相手にするだけ時間の無駄と避けるが常だが、ずぶの素人初心者には、自分が死なずに安全に経験値を稼げる格好の相手なのだ。だからこそ、FWのここそこに見るからに弱そう(笑)で、その癖やたらに刃向かって来る様にプログラムされた野犬が多数配置してある。一応、数が減ったらオフィシャル側で順次補充をしているようだが、やはり運の悪い連中もいるようで、折角経験値稼ぎにやってきたのに野犬の死体の山しか無い、なんて事が一時期かなりあったらしい。
 駄目だったら諦める…皆それが出来れば警察だって苦労はしない。駄目だったら無理やり、と言うのが悲しいかな人間の本性で、ご多分にもれず横紙破りをする奴が出始めた。
 元々、FWは実にリアルな世界ながら詰まる所ヴァーチャルなデータで出来た電脳空間である訳だから、例の野犬のデータだってこっそりアップしてやれば済む事なのだ。公式ガイドブックには書かれていないが、公然の秘密的裏技で自作モンスターのアップロードは割合簡単に出来る。何の気の利いたインターフェースも用意されておらず、今時考古学的レベルの素晴しさと言う他無い、見事なまでに無愛想なCUI画面で延々コマンドラインと格闘しなければならないが、既にFWのクリーチャーデータベースに登録済みのキャラクターで、パラメタも規定の範囲に収まっていればほぼフリーパスでアップが可能なのだ。プレイヤーキャラの設定にはクラッカー泣かせの厳しいセキュリティがあると言うのに、何故かNPCの管理には無頓着なFW界。そこにまず問題がある訳なのだが…
 とにかく手頃な野犬データを無駄にアップする奴が沢山いて、しかも妙な所でリアルなこのヴァーチャル世界、「繁殖」までシミュレートしてあって、しかも野犬は元々繁殖力も強くて…たちまちの内にFWのあちこちが野犬の群れに浸食されて行く。
 ただ数を頼むだけなら所詮は烏合の衆、どうと言う事も無いのだが、そこに黒妖犬がしゃしゃり出た。NPCとは言え高度な人工知能プログラムを持つこのモンスター、自分に魔力の弱い生物を操れる魔法があるのを良い事に、野犬の群れを支配する様に至ったのだ。一匹一匹は弱いとは言え、いまいましくも優秀な頭目に制御された野犬どもは言わば闇の軍勢で、プログラムされた邪悪な本性そのままに恐るべき破壊活動を行なっている。ただ旅人を襲うばかりでなく、時には村や街を襲撃し…怒りも悲しみも疑似的にしか感じないNPCで構成された集落ならばまだしも、プレイヤー達は襲撃のショックから立ち直れない事もある。実際、プレイヤー達が長い年月をかけて作り上げた都市の幾つかが、地図からその名を消している。
 FWのオフィシャルサイドにも再三クレームを付けているのだが、大企業の例に漏れない殿様商売、ふんぞり返って何もしない。心あるボランティアが細々と駆除を続けているが、また大発生が起きたのだ。

「私達の村を助けて下さい」
 …およそ半数の住民が強制ログアウトの憂き目に会い、壊滅を目前としたコミュニティの、それは限界ぎりぎりの懇願であった。

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(C)獅子牙龍児
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