円卓なやつら (3)


 俺が答えを出せず行き詰まる内、今度は別な人間の、堪忍袋の尾が切れた。
「ちょっとモリガン!あなたこそいい加減にしなさいッ!」
 きりり、細い形の良い眉がつり上がる。…ヴィヴィアンはハーフエルフなだけに元々眉は上がり気味だが本気で怒った時はまた格別で。
「話を逸らさないで!いーい?あたくしだって何もブラックバスを絶滅させろなんて言ってなくてよ、ただリリースを…」
「何だってバスばっかり邪魔者扱いされなきゃなんないワケェ!!」
「邪魔ってあなたこそッ!被害妄想なんじゃなくって!」
「被害妄想って何よ腐れババア!」
「ババアぁ!?きーッ、あなたねっ!言うに事欠いて何よこの丸出し女!!」
「丸出しですってえええ!!あんたこそ、おマニアなコスの癖にィ!」
「ぬあんですってええええええ!!!」

 ああ、さらに話が明後日の世界を暴走し始めた。あれだけ激高していてもオネエ言葉を崩さず罵詈雑言の応酬を続ける様はそれなりに見応えがあるが、何と言うか…オ○マ(ネ○マ)同士の喧嘩は、ただの女同士の喧嘩よりさらに凄まじい。俺としてはただひたすら某○子(伏せたイミなし)ちゃんの如く、顔に縦線無数に入れたまま、呆然と眺めるばかりで全く手が出せない。
 それでも、どんな雰囲気にも負けない奴って意外といるもんだよな。

「ボクはねー、ブラックバス賛成派」
 場違いな程、明るい子どもの声が真直ぐ響く。ヒートアップしていたネエちゃん'sも、台詞の主が主だったから、とりあえず矛を収めて向き直る。
「で、ケイはどーして、そう考えて?」
 努めて平静に、ヴィヴィアン。ケイは何せメンバー最年少なもので、長老(おっと禁句…)のヴィヴィアンとしては見解の違いがあってもそうそう食ってかかる訳にはいかない。
「ズバリ、経済効果だね!」
 にっこり断言されて、苦笑も含めて一座に笑いが起こる。確かに…ケイは何せ商人(マーチャント)だから。しかも商人ギルドにも加盟して、元々目利きであるのも手伝って、世間の景気と全く無関係に相当な富を築いている。小人族と言う事で小柄で愛敬があり、さばさばしていて明るいキャラクターだが常に算盤勘定は忘れ無い。そんな「彼」らしい意見である。
「とにかく人気は力なり、ブラックバスが釣れるとなれば客は遠くからでもじゃんじゃん来る!都会と違ってビジネスチャンスの少ない所に、客を誘致するのは大変だからね。鮎がいくら奇麗で味も通好みって言ったって、そもそも『通人』なんて種族は正真正銘レッドデータブック掲載種!」
 屈託の無い笑顔で言われれば、流石のヴィヴィアンも苦笑せざるを得ない。ケイの主義主張は流れに逆らわず乗り遅れずで俺としても多分ヴィヴィアンとしても異論は相当あるのだが、特に通人論は実に正論なだけに結構手強く感じてしまう。
「儂は、こう考えるがの」
 突然ダミ声が響き渡る。ドワーフ族の戦士、ガラハッドだ。何でも小学生時代からRPGには馴染んでいたとかで、非コンピューター系のTRPGも含めてかれこれ十年以上ドワーフ一筋の筋金入り、それだけに奴の意見はいつも独特で重みがある。
「『りりーす』とやらは嘘ものの臭さがプンプンしてどうにも我慢ならんが、」
 一端口を真一文字に閉じる。…奴の癖だ、一家言を言う前に必ず暫く黙って見せる。
「じゃがの、世間の奴ばらはの、鮎だの蛍だの甲虫だの、見てくれの良い物ばかりに群がってばかりおる!魚に他所者も何も無い、ブラックバスとて生き物じゃ、目の前に食える物が転がっておれば食らいたくもなるじゃろ、第一の、」
 ぐりぐりした眼を、くわっと見開く。
「ブラックバスの方が食いでがある!!」
 …そう、ドワーフ族の習いとして、ガラハッドは大食漢なのだ。

「『りりーす』を禁ずるには儂も別に構わぬ、じゃがの、ただ鮎じゃ何じゃ言うてブラックバスをただ殺し無駄に捨てると言うなら儂も容赦せんぞ!」
 ぎろり、胡座もそのままヴィヴィアン、トリスタンを無遠慮に睨む。…あるいは本人の「素」の考えも入っているかも知れないが、全く都会人の理性と感情から議論していた他の皆と違って素朴で説得力があり、しかも全くドワーフらしいロジックに妙な論争の温度が少し落ち着く。
 俺達は冒険者なんだ。今、俺達は「ファンタジー」の世界にいる、何で現実の、それも俺達一人一人にとっては生活がかかっている訳でもない、従って実は明確な答えを出せない机上の問題で仲間割れしているんだ?
「某も一言、述べても良いかな?」
 静かに、低い低い豊かなバリトンが響く。今度はガウェイン、野獣騎士(ビーストナイト)だ。
「某はブラックバスのリリースには反対であるし、鮎に限らず元々の生き物を保護するは良き事と考える」
「わあ!ガウェインちゃんも環境派だ!もう勝ったも同然だあ♪」
 キャッキャと大騒ぎしながらトリスタンがガウェインの太い腕に抱きついた。別に、俺達トリスタンがリアルでは女の子だって知っているからいいが…男が男(しかも超絶マッチョ)に嬉しそうに腕を絡める、これはヴィジュアル的にアレだぞ(汗)
「いやいやトリスタン、某一人の一存で全てが決まる訳では無い。心苦しいが、我らの意見が正しいか否かは議論を尽くして初めて定まる」
 ガウェインもガウェインで、何せコイツは男が大好き(死)だから、胸板に頬ずりしながら喜ぶトリスタンの長い髪の毛を優しく撫でる。…何処か、他所でやってくれ他所で…
 白くなって行く俺の意識にさらに追い打ちをかけるかの様に、さらにもう一人口を開く。
「ガウェイン、君の意見に私も賛成だよ」
 相も変わらずナルシーな声。本人は美声と言い張るし、何故か賛同者も多いんだが、俺にはそうは思えない。
「おお我が『友』よ!ランスロ、某に気を使っているのでは無かろうな?これしきの相違で我らの『友情』少しも損なわれはせぬ」
「いやいや我が『友』ガウェイン、これは私の正直な真情だ。何より私と君とが同じ事を思っていた、その事実が私には喜ばしい」
 …いつも通りのやり取りだ。元々アーサー王伝説でもガウェインとラーンスロットの二人は大の親友との設定だが、お茶目な(←お茶目で済ましていいのか…)この二人のプレイヤーは、ヴァーチャル上でやはり親友を演じる事にしているのだ。
 だがしかし、獣の力をその身に宿し、鍛え抜かれた屈強の肉体を闇より黒き鋼鉄の武具で顔に至るまで隙間無く多い、二本の豪刀より重い斬撃を繰り出す傍ら禁欲的な物腰で思索に耽る、まさに仁知勇全てを兼ね備えた理想の激渋マッチョがガウェインなら、対するラーンスロットは薄く色の抜けた茶色のロングストレートもさりながら、顔立ちもまた優男、色白の身にまとうはこれまた見事に白銀の、ミスリル製なる麗々しき甲冑、モデル顔負けの立ち姿ながら愛用の得物は柄の彫刻も麗しきグレートソード、殊に白馬にまたがればもはや洒落にならない程マッチする、まさしく白皙の美剣士(…描写しながら馬鹿馬鹿しくなって来た…)と呼ぶに相応しき見事な容貌。一部で「マッチョ教徒」と呼ばれる熱烈なる信者を持つ野獣騎士ガウェインに、某所で「世界一ラーンスロットが似合うで賞」(何じゃそりゃ)を貰った魔法騎士(ルーンナイト)、ただ並んでツーショットでいるだけでも十分異様であるのにコイツらは完全に面白がって熱い『友情』を演じまくっている。
 現に今だって、台詞の中の『友』とか『友情』とかの言葉の所に、アヤしいアクセントを付けて楽しそうに喋っている。だからこそ、バーチャル世界でこのコンビは相当の有名人で、たまに同人ネタに使われてたりもするそうだ(…)しかもその「本」をファン(?)より献上されて、しかも二人して嬉しそうに(げえ)読んでいたっけな…(遠い目)
「おお『友』よ…!我らの友愛通い合い、知らぬ内に同じ論へと辿り付く、そう考えるは某の思い上がりかな?」
「いやガウェイン、正しくその通り、ああ天なる神も御高覧あれ、我らの『友情』は二つの心を一つにした!」
「おお…我がランスロ…」
「愛しき友よ…」
 ひしと抱擁。何か、点描の薔薇が見えるのは俺の幻覚か?…そこだけ完全に違う世界になっている。
 …コイツら、このままブチューとかやるんじゃないだろうな(瀧汗)等と俺達の動揺が頂点に達した頃、漸く友情シーンに水を差す人間が現われた。

<<戻 進>>


>>「Fortune World」目次に戻る

(C)獅子牙龍児
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送