円卓なやつら (4)


「はいはい、お終い!そこで熱いベーゼなんかかますんじゃなくってよ」
「おお我が姫、何と言う無情…」
「無情でも何でもいいから!二人がアンチバス党だってのは分かったから!」
 …そう、俺達は元々ブラックバス問題で論争していたのだ。
「ああ、俺もブラックバスのリリースは良く無いと思う」
 二人のいちゃいちゃ(死)が終わって、何となくほっとして、俺は何気なく口走っていた。
「あ!ぱーしー!」
 途端にトリスタン、急に眉を吊り上げて俺を指差して来やがった。おい、平仮名で「ぱーしー」って呼んだな?音声認識だからって甘く見るんじゃねえぞ、俺には分かる!大体俺の名前は「パーシヴァル」、お前ら俺が幾ら眼鏡っ漢だからって例のキャラと一緒にすんじゃねえ、俺はもっとクールガイだっつーのッ!(ファンの人ゴメン…)
 トリスタンの意図もこの後の展開も考えずに俺が心の中でいきまいていると。
「ぱーしーってば、ガウェインちゃんが賛成って聞いてから賛成に回ったでしょ!」
 ぎくっ!
「え、え?お、俺は別にそんな…」
「嘘だね、オレとモリちゃんの時はちょっとモリちゃん気味だった癖に!」
 ぎくぎくっ。トリスタンは意外と鋭い所があるからなあ…新しい汗が俺の首筋を再び洪水にする。
「こら、その様に責めるは詮無き事だぞ?」
 そっと助け船を出してくれたのはガウェイン、いきり立つトリスタンの肩をぽんぽんと叩く。奴を「兄貴」と慕う人間数多いが、実際奴は度量が広く、年上ぶった仕草が不思議と様になる。…御陰でじきに血気盛んな吟遊詩人も収まってくれた。
「それよりバスの事はひとまず捨て置き…犬の方は如何とするかな?」
 海外映画の吹き替えの役者さながらの渋い声で、ゆっくり一同に問う。
 …そうだった。俺達、黒妖犬の依頼からブラックバス論争なんての始めていたんだった…


 例の襲われた村から得た情報を、一つ一つ点検する。ガウェイン&ラーンスロットの芝居じみた馬鹿騒ぎの効用か、もう先のブラックバス論争が再燃する兆しは全く無い。とりあえず俺達のしようとしている事は「撲滅」じゃあ無い訳だし、それより何より、貴重なコミュニティ丸々一つの命運がかかっている。俺達の台所事情も良くは無いから、ボランティアをする気は全く無いが、とりあえず大した儲けにならずとも赤字にならなきゃやっても良い気に皆なっていた。
「ふむ…確かに黒妖犬が複数いるは確かだが、出現のパターンから言っておよそ三匹。他に妖魔が隠れて糸引く様子も無し、野犬の量は確かに多いが、頭目を消せば所詮は野良犬」
「新しい装備、必要無し!新しい面子、必要無し!新たな出費は無いし、酷い怪我とか大事なアイテム使っちゃったりなくす心配もなさそうだし、向こうがこの報酬確実に払ってくれるなら、取り敢えず赤字の心配無し!」
「そうね、あたくし達には神官戦士様が付いていらっしゃるのですものね」
 ふわり、ヴィヴィアンが優美に笑ってこちらを向く。…けど、眼が絶対笑って無い。どっちかって言うと、「きりきり働かんと殺すぞワレ!!」って言うアレ…ああ、俺、何でこんなパーティーにいるんだろう…

 結局、報酬に関する契約を再度確認し、相手の現物を確かめる事、万が一にも逃げられる事など無いよう、支払能力のある相手の身柄を確保する事などを条件として依頼を全面的に受け入れる事に決定した。
 闇の眷族たる黒妖犬に俺の神聖魔法が覿面に効くのは確かだが、とにかく魔法耐性だけは厄介なモンスターだから、暗黒騎士(ダークナイト)で暗黒魔法しか使えないヴィヴィアンは勿論、普通の魔法の攻撃はほとんど役に立たない。幾らガラハッドやガウェインが怪力と化け物無みの体力を誇るからと言っても、統制のとれた何百と言う数の野犬を倒すのは如何にも骨だ。
 …つまり今度の依頼は、俺一人に責任がかかっている訳で。メンバーに他に神聖魔法の使い手が一人もいない訳だから、こんな事は初めてじゃないが、それでもやっぱり理不尽な気がして、俺は視線をふらふら彷徨わしていた…
 と。俺と唐突に眼が合ったマーリンが、俺の顔を見てにやりと笑う。その妙な笑顔を見て、俺の頭に電撃が閃いた!…コイツ、さっきのブラックバスで、結局一度も踏絵を踏まずに済んだじゃないか!名前が御大層にも「マーリン」で、しかも魔術師みたいな暑苦しいローブをいつも着て、馬鹿に長い黒髪にやけに白い肌をして、額には子細有りげなサークレットを填めて…どう転んでも魔術師にしか見えない(実際初めは魔術を学んでいた)この男、実は一つも魔法を使えぬために着いた通り名「黒衣の詐欺師」。実際、コイツは何時も抜群の腕前で自分にかかる火の粉を払う。その詐欺師の口が、音を発さず言葉を紡ぐ。
 …曰く、「せいぜいがむばれしんかんくん」
 畜生。俺は、何でこんなパーティーにいるんだろう…


<未完>


後記:
 …つー訳でバーチャルゲーム「Fortune World」第三段。ゲーム詳細はぼうけんのかえりみちシリーズを御参照の事。
 考えて見れば、この話の原形ができ上がったのはかれこれ数年前でした。しかしとにかくキャラ作るのにエネルギー使い果たしたのか…いつまで経って肝心の本編と言うか戦闘シーンまで至れず、ずっと放置してましたが…
 この「Fortune World」シリーズの中ではフツーにノリの良い(つーかノリ良く見える)話なのでちと勿体ないなあ、と。
 …もっともメンバーのほとんどが性別詐称しているなどそれなり問題はある訳ですが。そもそも各々のキャラについてリアルでの設定も一応ありまして、それが…皆、あんまし幸せじゃ無い様な…(遠い目)

 リアルとバーチャルでキャラの差が少ない、実際の人間とゲーム上での人格とが地続きなのはトリスタン位と言う悲惨さ。後はもう…とにかくもう…しかしそれでもこの「アヴァロンズ」、それなりに結束は固いパーティーでして。
 軽く作中でも言及しましたが、この「Fortune World」の匿名性はいっそヒステリックな程で、一旦ゲームの外へ出たならば、たとえ会員同士と言えどもこのゲームについて何ら語ってはならないと言う大変に厳しいモノです。そしてそれこそが会員達の間に一種選民意識を植え付けており、結果その選民意識を崩す動きを彼等はとても嫌う様になり…会員同士で監視しあう奇妙な自体が起きている、と。勿論企業サイドの操作です。
 …実際、こんな簡単に行くかなあ…とは思いますが、案外意識の操作って仕掛けを最小限にした方が勝手に発展するみたいですし。選民意識ってのは一旦植え付けられるとまあ麻薬みたいなモンですからね、本気でソレを死守するみたいです。むしろその意識に対するアタックがあればある程強くなっちゃうと言うか…
 で、話が逸れました。この「アヴァロンズ」、そう言った状況下でなお、定期的にオフ会をやってしまっていると言うかなりのチャレンジャーなのです。彼等も結局現実からの逃避の一環としてゲームの世界に赴くのですが、彼等はそもそもゲームそれ自体を死ぬ程愛していますし「逃避している自分」にかなり自覚的です。だからこそ、リアルな人間と仮想との間のギャップをむしろ積極的に楽しみオフ会をするのであり、それも「敢えて」気負い無く行うのであり…それは一種のレジスタンス活動的異議があるのです。

 って、あれ?
 なんかセイジ的エンゼツみたいだニョロ〜ン(涙)

 とりあえずヤリムリにまとめると仮想世界ではあれ程饒舌な彼等が何故リアルの世界で語る力を持たないのか、どんな無理難題であれひるまず解決して行くあの勇敢な冒険者達が何故リアルな諸問題にあれ程まで無力なのか…そんな問題をはらみつつも。少なくとも、仮想世界限定であれ饒舌になれる場所があれば無いよりはずっとマシ、そんな個人的な見解がちと混じっている設定なのであります。

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(C)獅子牙龍児
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