悲恋哀話


 魔術師の魔法の袋には相当な量の食べ物も用意されていた。
「お師匠はまめ過ぎる程まめなんだ」
 感謝しろよ、と配るシドが恩着せがましいのも仕方あるまい。他の人間の携帯食は元々量が少なかった上に泥水でただの屑と化している。当分、この食料以外当てが無いのだ。
「万が一って事を色々考えてさ、細々と物を揃えるから時間だってかかるさ!でも、その支度の御陰であんたも助かってんだぜ?」
「本当にそうね…」
 干した果物を受け取りながら少女が静かに頷く。先刻シドを妖魔と呼んで殺そうとした事が嘘のようだ。
「何だよ…気持ち悪いなあ、急にそこまで素直になられるとやりにくいぜ」
「気持ち悪いとは失礼ね」
 失礼と言いながら、少女は別人の様に穏やかで、かすかに笑みさえ浮かべている。
「そりゃ、坊主が知らねえのは無理も無いが…姫様は元々こんなお方だぞ!」
「そうじゃそうじゃ!身分を隠されるために、わざわざあの様に…」
「乱暴に振る舞ってたって訳かい?」
「…坊主、言葉が過ぎるぞ」
「だって…」
 何かまだ言い募ろうとするが、結局静かになる。

「坊主、お前は食わねえのか?」
「いいよ俺…お師匠と一緒に食う」
 シドは相変わらず眠る魔術師の傍に控え、様子を伺っている。そんな師弟を少女が羨ましそうに見守る。
「いいわね…何だかそう言うのって。本当の親子みたい」
「みたいも何も、お嬢ちゃんにも親御さんがいるだろうに」
「…いないも同じよ…」
 唇をかみしめた少女が、ぽつりぽつりと語り始めた。


 少女の両親は厳格だったと言う。行儀作法は元より学問、それに武術についても並以上の腕前を要求され、ほとんど自由に遊ぶ事も出来なかったと言う。幼い頃には何故だか理由がまるでわからなかった。
 ある日、人の噂を聞く。少女の両親の不和に付いて…

 少女の両親の家は親交が深く、幼い頃から二人は仲が良かったらしい。自然の流れとして二人は婚約し、式を挙げる運びとなったのだが…花嫁が、突然男と逐電したのだ。つまり、駆け落ち。
 両家は嘲笑され、社交界からもはじき出される羽目となり、少女の父親の実家も都にあった屋敷を退き、片田舎の別荘に移り住む様になる。およそ三年の年月が過ぎ、都雀も漸く全てを忘れる頃、突然少女の母親が帰還する。男に捨てられたらしく、ぼろぼろで…経緯を知る貴族連中は皆後込みした。何処の誰とも知らぬ男と三年も暮らした娘など、嫁に取れるものか。
 そこで、少女の母親の実家はかつての婚約を盾に泣き付いた。どうか、哀れな娘を引き取ってくれ、新しい家庭を築けば心の傷も癒えるだろうから…と。
 人々の冷笑の中、二人は今度こそ式を挙げるが。…無論、心の内は同じであろう筈が無い。
 若い頃は清々しい人柄だった父親の周りには女性の影が常にちらつく。母親は母親で、自分を振り回した例の男の面影が忘れられず、胸のロケットに今でも男の肖像画を隠していると言う。
 二人の間に少女が生まれてもそれは変わらず、人々は駆け落ち女の娘だ、下賎の種かも知れぬぞと口さがなく言いはやす…

「な、な、お嬢様は正真正銘お二人の真実の御子であらせられますぞ!」
「どっちでも同じよ…気持ちの無い所に産まれたのだから、神様の前では私生児よ」
「私生児…」
 少女のすねた様な口調に戦士も困った様に言う。
「その、あんたの気持ちも判らないでも無いが、それはちょっと酷いんじゃないか?」
「何がよ」
「お嬢ちゃんの言い種だと、まるで親御さんがあんたを嫌っているみたいじゃないか」
「当り前でしょ!だって、わたしの母親は他の男に一度走ったのよ!そんな女が生んだ娘なんて、たとえ自分の子でも可愛い筈ないわ!」
「でも、本当に無関心だったら期待だってしないさ。修行に煩いって事は、やっぱりあんたに立派になって欲しいからじゃないか?」
「違うわ!わたしがどうでも良いからよ!せめて、母親が地に落とした家の評判をなんとかしろって思っているのよ!だから…」
 少女の声は一段と悲壮に大きく。
「わたしは、見返してやろうと思ったの!とにかく剣の腕を鍛えて、騎士と戦って勝てる位になって、山に入って獣を倒して…そうすれば、何時かは…、何時かはって…」
 語尾が細くなって、次第に嗚咽に変わって行く。

「…その、あんたは充分頑張ったんじゃないかな」
 随分迷って後、まだら髪の戦士がおずおずと言葉をかける。
「親に愛されたいってのは子どもなら誰でも願う事さ。だけど、あんたは少し頑張り過ぎ…」
「あなたに判る訳無いわ!私生児の苦しみは私生児にしか判らない!」
 鋭い言葉を突きつけられて、戦士が何か言おうとしかかるが、複雑な表情でためらう。
「それにそこのあなたもよ!普通なら妖魔だって追い立てられる筈なのに、良い師匠の傍にいられて!」
「な…」
 シドの表情も激しく揺れる。が、口を開くより先に少女が地に伏してしまった。
「情けないわ、本当に自分が恥ずかしい!蛞蝓一匹倒せず、誓約も果たせぬままただ無為に失態をさらし…挙句、魔術師に助けられて、しかも恩を仇で返すなんて!」
「お、おい、あんた…」
「わたしの…わたしの母親の駆け落ちの相手は…魔術師だったのよ…」
「…!」
 少女の、奇異の行動の一端が今解けた。

 その魔術師は、魔法の修行に励むより芸人達と行動を供にする事が多く、様々な見世物で名を馳せていたらしい。殊に一瞬にして取り取りの花を出現させる手品で有名で、貴族の家々に呼ばれる事も多かったと言う。当然、少女の母親の実家にもしばしば足を運んでいた。話術の巧みさでも有名だったと言う。
「母は手品師を呼んで芸をさせるのが大好きだったわ…わたしはまだ子どもだったから、何も知らずに面白がっていたし、そんな時、決まって父が奥の書斎に引っ込んでしまう理由も知らなかった…」
 今なら良くわかるわ、と続ける。
「捨てられたと言うのに、母はまだあの男を忘れられないのよ。あの、ろくに魔法も使えぬ癖に嘘ばかり上手な口先男を…今だに騙されているのよ。父が、見たくないのも当然よね。…なのに、母は時によると口に出してその男を呼んだりするのよ!フロス、フロスって」
「フロスですって!」
 思わぬ方から驚きの声。…見れば、あの傷ついた魔術師が身を起こしかけている。
「お師匠!まだ起きちゃ駄目だってば!」
 慌ててシドがその身を支える。…まだ、顔色は悪く声もかすれている。少女の胸に痛みがよぎったが、却って心にもない言葉がこぼれ出る。
「寝た振りなんかして、盗み聞きなんて…何時から起きていたのよ」
「…実はかなり前からです。ご挨拶をする機会を逸してしまって」
 少女の胸の内を知ってか知らずか、傷にも関わらず魔術師の笑みは柔らかい。却って少女の方が顔を赤らめてうつむいてしまう。
「で、あんたはそのフロスって奴の事、知ってるのかい?」
 気を利かしての戦士の問い。白き髪の魔術師、深く頷く。
「ええ。もう随分昔になりますが…以前、ある街の魔法の私塾に身を寄せていたのですが」
 フロスもそこで学んでいたと言う。

「彼は優秀な魔術師でした。十五の頃にはほとんど一人前と呼べる腕前でしたし…」
「そんな筈無いわ!あいつ、いつもいい加減な手品しかやらなかったもの!」
「理由あっての事ですよ。…魔術は本来戦のために編み出された技で、その私塾にいたのも何処かの貴族に軍師として雇われる事を期待しての者ばかり、教えられる魔法も戦で人を殺すための技ばかりでした」
「そう…なの?」
「残念ながら、戦争と言う物は何時の世にもあります。彼は大切な人を戦火より守るため、必死で修行を積みましたが…優し過ぎる彼は、次第に己の才能を厭うようになり…私塾を出て魔術師である事も捨て、手品師として生計を立てる様になりました」
「何よ、それ。下らない事にただ逃げているだけじゃない」
「芸人と言うのも必要な職業ですよ。この世には辛い事ままならぬ事が多過ぎますから、せめて楽しい見世物で心を潤そうと言うのは当然の事でしょう」
「でもそれは逃避よ!芸人の芸見て楽しいなんて一時の事、何の根本解決にもならないわ!」
「だけど、お嬢ちゃん」
 戦士が口を挟む。
「俺は、こっちの先生の言う事も一理あると思うぜ?世の中は広くてややこしいんだ、『根本解決』なんて一人の努力じゃどうにもならないって事もあるさ。…特に貧しい人間はさ、毎日が無力感との戦いなんだ、真面目くさっていたら息が詰まっちまう。娯楽ってのが生きる活力になる事だってあるのさ」
「それは…そうかも知れないけれど」
 唇を噛む。
「どうしてその男の肩ばかり皆持つの!?わたしも両親もその男一人のために苦しんだのよ!」
「…申し訳ありません。ただ、フロスは本当に誠実な、純粋な若者だったので。私には信じられないのです。彼はいつも学問を援助してくれた恩人の事を話していて、何時かその人の役に立ちたいと…花を咲かせる手品も、花が好きだったその人のために覚えた様ですから」
「そんなの!奇麗な花とずるい話術で母を引っかけようとしただけよ!」
「お嬢様…」
 不意に今まで沈黙していたバトラー老人が、ためらいがちに口を開く。
「これは絶対にお嬢様に告げるなと、御当主様から固く禁じられていたのですが…あの事件は駆け落ちでは無かったのです」
「ええ!?」

「ご存じの様に、お嬢様の母上様はお美しい方でいらっしゃいます」
「ええ、知っているわ。…でもそれだけの人間よ」
「またその様な…ただ、その美しさが過ぎたのでしょうな、とんでもない話が持ち上がったのです」
 何と、当時の国王から侍女に欲しいと、内々にではあるが打診があったのである。
「王命ですからな…既に心を交しておられたお二人は苦悩なされました」
 婚約を盾に抵抗を試みるが、彼等の家は伯爵家、王の意向を阻むにはあまりに力が足り無さ過ぎる。
「たかが一介の伯爵家の子息が王と争うのかと、それを名目にお父上様を、引いては伯爵家全体を潰す動きすら起きまして」
「そんな事が…」
「そこで両家のために尽力したのがかのフロスでございました。この者、元々孤児であったのをお嬢様のお祖父様が拾われまして、大変に賢いため当家の家庭教師の推薦にて魔術の修行に出ておったのでございます。…戻って来たフロスめは、両家に降りかかる火の粉を誠心誠意払うよう毎日働いておりまして、また公にはただの無能な手品師と見られていましたからな、有力な家々を芸人として回って情報を探り…それはそれは身を粉にする様な奮戦振りでありました」
「…信じられないわ」
「しかしながら、事はさらに難しく…王家に嫁ぐが嫌ならばと、さる名門のお方からまで縁談が舞い込みまして。お母上様を巡る争いは熾烈を極め…それだけに、お父上様の身はますます危うくなられたのです」
「それではまるで災いの美女…」
「はい…お母上様もその様にご自分を責められまして。いっそ自害をと、入水まで試みられたのですが、これはフロスに止められまして」
 だが、これが運命の別れ目だった。少女の母はある陰謀を思い付き、フロスにそれを持ちかける。伯爵家に忠実なフロスは必死で拒否したが、ならば死ぬとの令嬢の覚悟に最後は決意を固める。
「そして、他の誰にも真実を告げず…芝居の駆け落ちをなされたのです」

 当然の事ながら少女の母の求婚者達が、愛ゆえにと言うより面子を賭けて追手を次々遣わした。ために逃避行は呵責無き戦いの連続となったのである。時には少女の母までに襲いかかる刺客達をフロスが懸命に追い払うのだが休む間も無く魔力を使い続けるフロスは衰弱の一途を辿り…しかも二人の真意を知らぬ少女の父までもが、裏切られたとばかりにやはり暗殺者まで雇って二人を追ったのだと言う。
「フロスは丁度お二人と同じ年頃でしてな、子どもの内はお二人の遊び相手を良く努めておりました。お父上様も身分を超えて親友の様に思っておられまして…また、お父上様はフロスが密かにお母上様を慕っておる事も承知しておられました」
 親しき友の胸中を知り苦悩に駆られた少女の父に、フロスは言ったのだ、「大切な人の大切な人はやはり大切な人だ」と。それを聞き感動した父は、フロスに永久の友情を誓ったのだ。だが…
「身を引いて二人を見守る等やはり奇麗事であったかと、お父上様の執念は凄まじく…」
 結局、フロスは少女の父の放った刺客により、無残な最期を遂げる。
「終始、フロスは己の恋心を秘しておりましてな…お父上様の元へ戻られた時、お母上様の御身体は、お奇麗なままだったそうでして…」
 …全ての真実を知った二人の驚きと悲しみは如何ばかりであっただろう…


「身分違いの恋って言うのは、何時も悲劇に終わるんだな…例え純愛であっても」
 ぽつり、まだら髪の戦士が重く言う。
「でも、あんたは良いじゃないか。あんたの両親は愛が冷めたんじゃない、ただ罪の重さに苦しんでいるだけなんだから」
「違うわ!じゃあ、父の所にこっそりやって来る、あの女は何なのよ!」
「誤解ですぞ、お嬢様。…あの者はフロスの生き別れの妹ですのじゃ」
「ええ!?」
「フロスはさる貧しい農家に生まれましてな、ある飢饉の折り、妹は人買いに売られてしまったそうでして。…フロスは恐らく娼館に売られたであろう妹の事を常々悔しがっておりましてな…お父上様は偶然かの妹が苦労して生計を立てている事を聞き付け、以後何かと面倒を見られておられますのじゃ」
「そうだったの…」
 大きく眼を瞬きする。真実はいつも意外なのだ…

「御当主様は、お祖父様はこの事を固く秘しておられましてな、事の真相が明るみになり、王家や有力な方々を欺いた事が知れれば一大事になります故…しかしながら、何も知らぬ雀どもがお嬢様の事まで悪し様に言うのをお二人は心を痛めておいででした。御教育が厳しいのもそのためでございます」
 そこで、バトラー老人は笑顔を浮かべた。
「ですからな、こたびの婚姻の件、本当におめでたき事でありましたよ。これで口さがない者どもも、二度と余計を申さぬと…」
「バ、バトラー様!それは…」
 ラグーが焦って止めるが、無論みだれ髪の戦士にも確と聞こえた。
「へえ?お嬢ちゃん結婚するのかい?じゃ、何でまたこんな所に…」
「そうよ、やっぱりもうお終いだわ!」
「お、お嬢様!?」
「わたしはあんな奴の言いなりになりたくなかったの、だから誓約を立てたのに…」
「何だよ、あの無茶な誓約って結婚から逃げようって事だったのかい?」
「だけどあいつの方が上手だったのよ…このまま誓約も果たせず終わってしまったら、わたしは奴隷になるんだわ…」
「ちょっと待て、一体どう言う事だい!?」
「そ、そうですぞ、お嬢様!いざとなれば誓約などゆっくり成されて、先方に伝えて日取りの方を遅らせれて戴ければ…」
「それが出来ないからお終いなのよ!あっちはあっちでとっくに直訴して、王命を取ってるんだから!」
「王命って何だよ?」
「『例え誓約を破棄して身分を失う事があっても嫁として許可する事』、『期日には必ず娘を王の謁見の場に連れて来る事』…この二つよ」
「って一体どう言う事だよ!じゃあ誓約なんて破棄してさっさと嫁に行けば…」
「あのな、」
 混乱するシドに戦士が諭す様に言う。
「貴族にとって誓約ってのは命懸けなのさ。昔から誓約を破ると尋常な死に方はしないって言うし…まあそれは迷信としても、誓約破ったってのがばれれば、普通は権利も身分も財産も全部没収になるのさ」
「…平民になっちまう、って事かい?」
「まあそんな所だが、正確に言や、貴族の社会からの永久追放だな。元の屋敷は追い出され、乞食にでもなるしか無い。それに…」
「それに?」
「平民だって、時には玉の輿って僥倖もあるけどよ、誓約破棄の人間はそれも無理なんだ」
「???」
「王命がある時は別でな、一応、形の上では結婚も出来る」
「形の、上?」
「聞いた事があります…」
 魔術師が、先刻よりさらに蒼ざめながら震える声で口を挟む。
「無体な結婚の申し込みに困難な誓約を立てる事で抵抗した女性が何人もいらしたそうですが、逆に相手に王の許しを得られてしまい、誓約を無理に破らされ結婚させられ…形ばかりの令夫人となられて」
 辛そうに眉を寄せる。
「本当に形の上だけの事で…相続も領地所有の権限も無く、社交界に出るような、貴族婦人に当然の事すら許されず、屋敷の中でも侍女の一人も付かず、一番位の低い従僕にすら逆らえない…」
「何だよそれ!?滅茶苦茶じゃん!」
「全くその通りさ。乞食ならまだ自由もあるが、王の特別の許可ってモンが降りたら最期…屋敷付きの、まさに奴隷にされちまう」
「そんな…それでそんなに焦ってたんだ」
「ご免なさい…」
 互いに、あの事件を思い出し…しゅんとなる。
「俺…」
「シド」
 何か言いかけた少年に師匠の声がかぶさる。
「自分の身で何とか…等と考えているのでは無いでしょうね?いいですか、あなたは人々を今悩ませている訳ではありませんよ?…誓約の内容から言って、姫君が芝居であなたを捕えて引き回したとしても、何の解決にもならないのですよ」
「う…」
 まさしく考えた事を言い当てられてシドはぐうの音も出ない。そんな弟子を笑顔で抱き寄せながら、魔術師がおどけた様に言う。
「この子は斜に構えて素直で無い所もありますが、本当に優しい心根なのですよ。あまり、同情を引かないで下さいね」
「はい、はい」
 少女がおかしそうに笑う。
「良いわねえ…シド、と言ったかしら?貴方、幸せな妖精ね」
「幸せ…?」
 ほんの少し少年は複雑な顔となるが…口をつぐむ。
 代わりに、まだら髪の戦士が勢い良く立ち上がった。
「よし!とにかく急ごう!」
「急ぐって、何を…?」
「決まってるだろう、お嬢ちゃん。あんたの誓約を何とかするんだ」
「何とかって、もう無理よ。期限まで後三日しか無いもの…」
「三日も、ある。…時間なんて頭の使いようでどうにでもなる!」
 多分にはったりであろうが、若い戦士の言葉は少女に確かな力となった。
「そう…そうよね、まだ三日丸々あるのよね!」
「おお…その意気ですぞ、お嬢様!」
「よっしゃ、じゃ、まずここから抜け出す算段をしようや!」
「その前に…ちょっとよろしいですか?」
 魔術師のにこやかな声がして。気付くと杖を振るい何やら呪文…
「お、お師匠!駄目だよ魔力使っちゃあ…」
 シドの悲鳴を他所に魔法が完成する。全員の身体から竜巻の様に水の渦が立ち上り…残念な事に、泥水だけにあまり美しい眺めでは無いが…そのまま手近な水たまりへと消えて行く。慌てて各々衣服を確かめると、嘘のように水気が消えて乾いている。
「大分時間も立ちましたしね、もう手遅れかもしれませんけど…」
「ううん!全然違うもの!ありがとう、助かるわ!」
「ったく!お師匠はお人良し過ぎるよ!疲れてぶっ倒れても知らないからな!」
 ぶうぶう文句を言う少年の姿が、皆の笑いを誘っていた。

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(C)獅子牙龍児
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